風を掬う者(先行版)

人間の愚かさ、そして死をテーマにしたオリジナル小説

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壱章/人斬り/挿話弐拾漆/宿命の男達

虎士郎は黙ったまま、天竜を睨み続けている。
表情に変化はない。
ただただ睨んでいるのである。
「さて、とっとと終わらしちまうか」
独り言のように天竜が言う。
「抜きな」
続けざまに天竜が虎士郎に声を掛けた。
虎士郎はそう促されてゆっくりと剣を抜いて構えた。
天竜も虎士郎の動きに合わせる様に、
ゆっくりと剣を抜いて構えた。
数瞬の静寂が二人を包み込む。
そして、その静寂が二人を縛り付けようとしたその時、
その静寂を振り払うかの様に天竜が言う。
「例の奴で来な」
ー例の奴ー
隠岐流剣術の必殺剣である【月影】の事である。
虎士郎はすぐさまそれを理解したようだ。
普通ならそう相手から促されると警戒する事もあってか、
なかなか自分からは動きずらかったりもするのだが、
虎士郎は違った。
天竜の言うままにすぐさま【月影】を繰り出した。
一気に間合いが詰まって行く。
虎士郎の剣先が天竜の喉元へと伸びて行く。
しかし、天竜は避けようともしない。
微動だにせずに虎士郎を睨んでいた。
虎士郎の剣先はすぐそこまで来ている。
それでも天竜はまだ微動だにしない。
ついに虎士郎の剣先が天竜の喉元を貫いた。
その瞬間、天竜が動いた。
天竜は物凄い速さで剣を振った。
恐らく普通の人間には捉える事は出来ないであろう速さで。
一瞬にして目の前の虎士郎の胴を
真っ二つにしてのけたのである。
虎士郎の下半身は地面に転がり血溜まりを拡げている。
上半身は天竜の喉元を貫いた剣を握ったまま、
ぶら下がっている状態だった。
胴の切断面から大量の血が垂れて、
その下にも血溜まりを拡げている。
すでに虎士郎は絶命していた。
その表情は天竜に向かって来た時と何の変化も無く、
その目は天竜を睨んだまま、
いや、見詰めたまま、なのかもしれない。
そして、天竜は、というと、
満足げな表情を浮かべながら、虎士郎を睨んで、
いや、優しく見詰めているようだった。
そして、そのまま右斜め前方へと倒れ込んだ。
天竜もまた、すでに絶命していた。
二人は虎士郎の剣で繋がれたまま、
向き合う状態で横に倒れ込んでいた。
天竜はその気になれば、虎士郎に【月影】を
出させずに闘いを進めていく事はできたであろう。
しかし、虎士郎を斬る事が出来なければ、
いつまで経っても決着は着かないのだ。
そして、そうする事で虎士郎がバテるのを待つ事も
出来たのであろうが、それもまた、自分が先に
バテる可能性も考えると、そのような不確定要素に
自らの命を預ける気にはなれなかったのである。
だから、自らの命を盾にしてでも、
虎士郎を斬る事のみに専念したのである。
そして、見事にそれをやってのけたのである。
虎士郎は虎士郎で天竜の剣を避ける事は出来たであろう。
しかし、天竜の剣を避けようとすれば、
繰り出した【月影】を引かなければならなかったであろう。
虎士郎もまた、自分が斬られる事を承知の上で、
天竜を斬りに行ったのである。
まるでお互いがこうなる事を望んでいたか、
のような結末であった。
もしかしたら、二人は二人共、
自分を斬る事の出来る者を求めて、
人を斬り続けていたのかもしれない。
そして、二人は二人共、
その求めるものを同時に手に入れたのではないだろうか。
こうして、向き合って、見つめ合ったまま、
倒れ込んでいる姿を見ると、
恋人同士が見つめ合っているようにも見て取れるのである。
長年、追い求めてきた、愛しき運命の恋人に出会った。
まさに、そんなものを感じさせるような、
二人の姿であった。
そして、二人を繋ぎ留めていたのも、
現在の姿と同じく『剣』であったのである。

此処に、
こうして、
二人の類い稀なる剣士、
いや、
『人斬り』
が、
闇へと還る事になったのである。

           ☆壱章/人斬り☆
                    完
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  1. 2016/03/04(金) 05:33:54|
  2. 壱章/人斬り
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