風を掬う者(先行版)

人間の愚かさ、そして死をテーマにしたオリジナル小説

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壱章/人斬り/挿話弐拾/決意する男と決意を必要としない男

昼間はまだ暑さも残っているが、
日が落ちるとだいぶ涼しくなってきた。
そして今日も虎三郎は、兄虎次郎の敵でもあり、
虎三郎が隊長を任された、
三番隊の前隊長であった斉藤一の敵でもある、
人斬りを探す為に夜回りをしていた。
これまでに何度かは不審な人物に
遭遇する事もあったのだが、
これまでは全て空振りであった。
そして今日もまたお目当てにはありつけそうもない、
そんな風に虎三郎は思い始めていた。
その矢先、虎三郎の目線の先に、
一人の人影が闇の中に薄っすら見えてきた。
虎三郎はその瞬間から、
好きな女子に会いに行くような、
胸の鼓動に襲われていた。
更に、一瞬体が金縛りのように、
動けなくなるような緊張に陥り、
その緊張を解すように何度か呼吸を整えた。
そして、その人影の方へゆっくりと歩を進めていった。
顔を確認出来るような距離に入り、
虎三郎の緊張が一気に緩んだ。
「なんだ、虎士郎じゃないか。
こんな時間に何してるんだ?」
しかし、虎士郎からの返事はない。
「どうしたんだ?」
虎三郎は声を掛けると同時に、
虎士郎のその異様な雰囲気に気付き、
背筋に虫が這い上がってくるような感覚に襲われた。
「ま、まさか、」
虎士郎は無言で虎三郎を見据えていた。
途端に再び虎三郎の中の緊張の糸が張り詰めた。
「お、お前が、
虎次郎兄さんや斉藤さんを斬ったのか!?」
虎士郎は何も言わずに、
まだ虎三郎を見据えている。
虎三郎は戸惑っていた。
まさか、兄と同志の敵が、
双子の弟の虎士郎だったなんて。
しかし、たとえ身内であったとしても、
見逃すわけにもいかないし、
自分も虎士郎を殺すつもりでかからなければ、
自分が斬られる事にもなるであろう。
虎士郎の沈黙が虎三郎にとっては、
殺気と感じられたのである。
「そうか、虎士郎よ」
虎三郎はそう言って、意を決したように、
ゆっくりと剣を抜き構えた。
虎士郎も虎三郎の動きに合わせ、
ゆっくりと剣を抜き構えた。
静寂が闇を包む。
虎三郎が虎士郎に目で問う。
〈お前が虎次郎兄さんを斬ったのか?〉
〈お前が斉藤さんを斬ったのか?〉
虎士郎が沈黙で応える。
〈お前は双子の兄をも斬ろうというのか?〉
〈お前に僕が斬れるのか?〉
再び虎士郎が沈黙で応える。
今度は虎三郎が自らに問う。
〔お前に双子の弟が斬れるのか〕
〔斬る!〕
〔斬らなければならない!〕
静寂を破り、虎三郎がゆっくりと間合いを詰める。
虎士郎は虎三郎を見据えたまま微動だにしない。
後一歩、いや後半歩で剣の間合いに入る。
そこで虎三郎は歩を止めた。
再び静寂が闇を包む。
しかし、今度の静寂は、
今にも破裂しそうなものである。
そんな闇の中で虎三郎と虎士郎という、
双子の兄弟が対峙していた。
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  1. 2016/03/04(金) 05:22:22|
  2. 壱章/人斬り
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