風を掬う者(先行版)

人間の愚かさ、そして死をテーマにしたオリジナル小説

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壱章/人斬り/挿話拾壱/優しき男

初夏の日差しの中、数人の子供達が遊んでいた。
そして、その中に虎士郎の姿もあった。
先程まで此処、壬生寺の境内では、
新撰組の訓練も行われていたが、
今は隊士達の姿もなく、
子供達の楽しそうな笑い声が響いている。
虎士郎はよく新撰組の訓練が終わる
これぐらいの時間に壬生寺に来て、
子供達と一緒に遊んでいた。
そこへ一人の男がやって来た。
「虎士郎さん、ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょうか」
「ごめんよ、ちょっと虎士郎さんをお借りするよ」
子供達に向かって、男はそう言った。
子供達は口を揃えて、
その男に対して文句を言ったりしていたが、
すぐにまた遊びに夢中になっていく。
虎士郎は男に促されて、
二人でちょっと離れた所まで移動して、
子供達が遊んでる姿を見る形で隣り合って腰を下ろした。
「なんでしょうか?総司さん」
「いや、虎次郎さんが亡くなられたでしょう」
総司と呼ばれた男、
沖田総司は少し言いずらそうに言った。
「はい」
沖田と虎士郎はよく此処で一緒に
子供達と遊ぶ仲であった。
「で、ちょっと心配になって、」
「そうですか、でも、もう大丈夫です。心配無用です。
心配して頂いて、ありがとうございます」
「それにしても、虎次郎さんが斬られるとは、」
「はい、」
「虎三郎さん程じゃないにしても、
なかなかの使い手ではあったのに、」
「はい、」
「虎士郎さんは新撰組に入る気はないのですか?」
「なんですか?いきなり??」
「虎三郎さんは最近、虎次郎さんの敵を取る為に、
毎夜のように見廻りをしているようです」
「そうですか、」
「虎士郎さんもこれを機にと、私は思ったのですが、」
「僕には無理ですよ」
「そんな事ないと思うけどなぁ。
以前一度入隊試験受けた時の動きは、
なかなか筋がいいように思えましたよ」
「僕にはとても、他人を斬るなんて事、出来ませんから」
「そういえば、入隊試験の時も
攻撃はぜんぜんしませんでしたね」
「はい、」
「なんでですか?」
「怖いのかもしれません」
「何がですか?」
「他人を斬る事も、自分が斬られる事も、」
「確かに他人を斬る事は、
自分が斬られるという事に繋がるのかもしれませんね」
「総司さんは怖くはないのでしょうか?」
「怖くない、と言ったら嘘になるのかもしれませんが、」
「はい」
「今は自分の力を試したい、
そういう思いの方が強いのでしょうね」
「自分の力、ですか、」
「今、時代は揺れ動いています。
そんな中で自分がどれだけの事が出来るのか」
虎士郎は何も言えず、沖田の言葉を待つ。
「あの子供達の為に私が何か出来る事は、と、
ただただ、そう思うのです」
沖田は子供達に優しい眼差しを向けていた。
虎士郎は俯いて、拳を握りしめていた。
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  1. 2016/03/03(木) 06:34:03|
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